主婦としての生活

妻として主婦としての生活も始まっていました。

夫デニスを送り出したあと、部屋を片づけ、買い物に行き、二人のタ食の準備をします。

タ食を毎日、自分の手でつくるという作業は、彼女にとって初めての経験でした。

娘時代は母の手伝いをするぐらいだったし、学生時代は寮の食事ですませ、勤めながら選挙運動に熱中していたときはそんな時間などまるでなかったのでした。

だから娘時代を思い出し、料理の本を見ながらタ食をつくることは、彼女にとって一種の挑戦であり、70心の軽やかささえ覚えるものでした。

家具の位置を変えたり壁紙を張り替えたりするのも楽しかった。

この壁紙の張り替えは、彼女にとってほとんど唯一の趣味といってもいいかもしれません。

議員になり、大臣になって私的時間がほとんどなくなっても、壁紙を張ったり、張るべき壁紙を選ぶことだけは人に任せていない。

それが、自分も家庭の人であることを示そうとする意思表示であり、家庭を顧みる余裕がなくなったことへの贈罪でもありました。

少なくとも彼女は家庭を大事にし、家庭をないがしろにはしていないという姿勢だけは持ち続けました。

新婚時代といっても、家庭に閉じ籠ってばかりいたわけではありませんでした。

法律の勉強と同時にエッセイを書き、教育問題の講演会に講師として出席しました。

雑誌『サンデイ・グラフィック』に書いたアジ演説ともとれる文章では、女性に向かって「目覚めよ」と呼びかけています。

女性が平等の地位を求めるには、男性と同じように社会で働くべきであり、家庭のために仕事を放棄すべきではないと主張しました。

女性が働くことによって家庭が犠牲になるという考えは間違いだとして、家庭と仕事を両立させている著名な女性たちを引き合いに出しています。

「女性が仕事でも同等の力を出すとしたら、主要閣僚ポストにも男と同じチャンスが与えられてしかるべきです。

女性の蔵相、女性の外相があってもよいではありませんか」

蔵相、外相は引き合いに出したが、首相とは言っていないところが面白い。

さすがの彼女もこの国のトップに女性が坐ることまではまだ考えていなかっのです。

保守党党首選立候補を決意する一カ月前ですら、今世紀のうちにイギリスに女性首相が誕生する機会はないと言っていたぐらいだから、政治の世界に入る一歩手前のこの時点で大胆な予測をするのは無理だったでしょう。

しかし、少なくとも誰かが女性として蔵相や外相になるべきだとの主張を胸に抱いていたのです。

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